其処に在るのは、大量の書物。本だけに関わらず、ただの紙切れやその束までもが視界の全てを覆っている。読むどころか、数を数えるだけで三月はかかりそうだ。

 この図書館の主、パチュリー=ノーレッジは魔女である。ここで指す魔女とは、生業ではなく在り方だ。どこぞの白黒とは違う、完璧な魔女なのだ。そんな彼女も、たまには困り果てることもある。

「……Mag……いや、Manかしら」

 普段滅多に読むことの無い、初心者向けの魔術書。其の中でも、やけに古ぼけた本を発見したのが事の発端だった。この本、ところどころインクが滲んだり虫食いなどで、まともに読むことが出来ないのだ。何かの薬の作り方だということは分かるのだが。

本と自分を切り離せないとまで自負する彼女にとって、『読めない本』というものがどうにも屈辱的だった。自分の存在を否定されたような、そんな感覚までしてくるのだ。パチュリーは、ヤケになってその本の解読を始めた。

「図も載ってるけど……何だったかしら、これ。どこかで見た気がするのだけど……」

そこには、見開きを丸々使って二股に分かれた植物のようなものが描かれていた。それとなく覚えているような気もするのだが、インクの滲みのせいか、或いは多すぎる知識のせいか、該当する物が思いつかない。知っているのに思い出せないのは、どうにも気持ち悪い。

「うーん、大体は解読できてるんだけど……この植物の名前が読めないのよね。何だったかしら……」

 パチュリーが頭を抱えていると、その声は突然背後から聞こえてきた。

「お、珍しい物読んでるな」

 振り返ると、そこにはモノクロームな魔女が立っていた。まるで形だけ絵本から真似たような、至極シンプルなスタイルだ。彼女──霧雨魔理沙は、小脇にパチュリーの本を抱えたまま、本を覗き込んでいた。

「……本当に、うちの門番はザルね。永夜亭の門番の方が遥かに使えそうだわ」

 やれやれとため息を吐く。魔理沙が本を持ち出すのを止めるのは、とっくに諦めた。何しろ、門番どころかパチュリーですら魔理沙に勝てないのだ。喘息のせいということもあるが、調子が良くても勝てるかどうか。

ちなみに、永夜亭の門番というのは、おそらく優曇華院の事だろう。

「私はどんな門番が居ても、押し通るけどな。あ、でも霊夢だけは雇う前に一報欲しいもんだぜ」

「霊夢は絶対に門番なんてしないでしょう、ガラじゃないもの。それ以前に、誰も来ないからって自分から退治に出かけそうだわ」

 魔理沙は「そりゃそうか」と言って笑うと、再びパチュリーの手元を覗き込む。

「で、パチュリーは何やってるんだ? こんなタメにならない本読んで」

「小悪魔が持ってきたのよ。ここの本は全部大事に扱ってるつもりだったけど、本棚の裏から出てきたとかで、状態が酷くて」

「翻訳中ってわけか。……なんだ、ほとんど終わってるじゃないか」

 魔理沙は私の書いた紙を手にとって、数枚ペラペラと眺めた後、

「……あれ、なんでここだけ空白なんだ?」

といって紙を指差した。

「ほら、こんな有様なの。こんなんじゃまるっきり読めないわ。名前も思い出せなくて……魔理沙、判る?」

魔理沙は私の差し出した本を少し捲って、何か思いついたように「そうだ」と呟いた。

「これなら、丁度私の家にあるぜ。持ってきてやろうか?」

「本当?」

「あぁ。借りてる本の賃貸料ってことで。多分、レシピ通りに作ってみれば名前も思い出すと思うぜ」

 魔理沙がいたずらっぽく笑った。





「ほら、これ。丁度、アリスの所から拝借したばっかりなんだ。新鮮なハズだぜ」

 魔理沙が植物を持ってきたのは、翌日だった。それを受け取ってマジマジと眺めてみるものの、やはり思い出せない。絶対に、知っているのに。

「……うーん、思い出せないわ」

「まぁ、飲んでみれば判るって。危険な物じゃないしな。じゃ、そういうわけでもう2〜3冊借りてくぜ」

 パチュリーはもう一度ため息をついて、自分の机へと向かった。





「──出来た」

 本に書いてあった通りの処方で、薬を作った。あとはこれを飲んでみて、体の変化を見るだけだ。

「……今更だけど、効果のわからない薬を飲むのも勇気が要るものね。……でも、魔理沙も危険なものじゃないって言っていたし……」

 かといって、効果の判らない薬を他人に飲ませるわけにもいかない。小悪魔あたりなら無理やりにでも飲ませられるが、さすがにそれは主としてどうなのか。

「仕方ないわね」

 そう言って、手元の器に口を付けた。こくんと飲み干すが、特に体に変化はない。この手の薬は、飲んですぐに効果が出るものなのだが。

「……おかしいわね、分量間違えたかしら」

 失敗した物は仕方が無い。魔理沙はこれが何だか知っていたようだし、今度来た時にでも聞いてみるとしよう。

 そう思って、立ち上がった時だった。

「えっ」

 かくんと膝が折れて、地面にへたり込んだ。足に力が入らない。

「な、何……? 薬の効果……?」

 心臓が爆発しそうなくらい暴れている。顔が自分でも判るほど赤い。そして、何より────体が熱い。

「ふあっ!?」

 衣服が擦れるだけで、全身に電気が走った。反射的に体を抱きかかえると、その動作でより大きな電気が走る。

「うぁ! ……ふっ、うぅん……!」

 結果、何をしても体には快楽が付いてまわる。どんどん意識が虚ろになり始め、それでも断続的にやってくる快楽のせいで意識も飛べない。

「魔理……沙ぁ……、判っ……てやったわね……ひんっ!」

 もう、手を床に着けただけで快楽が駆け抜ける。見ると、スカートの股間の辺りが濡れて色が変わっている。気づかない間に何度も絶頂を迎えていたらしい。床も、軽い水溜り状態になっていた。

「くっ……うぅ! こ、小悪魔ぁ……!」

 なんとか、最後の力を振り絞って子悪魔を呼ぶ。この薬、小悪魔なら中和剤を作れるはずだ。あとは今の声が小悪魔に届いていることを祈るしかない。でないと、気が触れそうだ。

 しばらくして、小悪魔が本棚の影から頭を出した。「なんですかー」と声を上げたあと、私の只ならぬ気配を感じ取って、文字通り飛んできた。

「だ、大丈夫ですかパチュリー様!」

 小悪魔が私の腕に触れる。その瞬間、全身が痙攣してまた絶頂を迎えた。

「ひぃんっ! あ、はぁ…ぅ…はぁ……」

 もう、呼吸をするのがやっとだ。これ以上人語を喋るのも辛い。だというのに、小悪魔は「大丈夫ですか、しっかり!」などと言って私の両肩をしっかり掴んでくる。

──あぁ、呼ばない方がマシだったかもしれないわ……。

 そんなことを考えたところで、状況は変化しない。さっきから小悪魔が机の上の本に気づいてくれるのを待っているのだが、小悪魔は私の事しか視野にないらしく、私ばかりに構ってくる。

「ベッドに運びますね、待っててください!」

 そう言って、小悪魔が私の体を抱きかかえた時、今までにない快感が全身を襲った。

「やっ……あ、あぁあああ!」

 視界に涙で歪んだ小悪魔の驚いた顔を捉えながら、今度こそ私の意識は完全にフェードアウトした。





「……ぅ」

 眠っていたらしい。黒かった視界が、瞼を開くことで光を取り戻していく。体を起こそうとして、全身に走る快感に体を抱いた。

「っ……! あぁ、そうだったわね……私、薬を飲んで、それで……」

 生涯最大の失態だ。見られたのが小悪魔だけだったのが唯一の救いだろう。見つけてくれるのが咲夜やレミリアだったらどうなっていたか。しばらく顔も見れないだろう。

「目が覚めましたか、パチュリー様」

 枕元で、小悪魔が立っていた。何か作業していたようで、少し草の匂いがする。

「中和剤は投与しておきましたが……パチュリー様ともあろう方が、なんで媚薬なんかを?」

「……魔理沙に、してやられたわ」

 おそらく、面白そうとかいう理由でこんなことしたんだろう。私は見事に魔理沙のいたずらにハマったわけだ。

「薬の事ですが、中和剤を投与してもしばらく効果は残ります。大変ですが、我慢してくださいね」

「ん……ありがとう」

 それにしても、さっきのは酷かった。体に走った快楽で悶えれば、その動作でさらに快楽が襲ってくる。連鎖反応的にどんどん快楽がでかくなっていくのだ。今まで遭遇したどんな弾幕よりもタチが悪い。

 ……それにしても、自分があんな声を出すなんて思いもしなかった。声なんて出したくもないのに、勝手に嬌声が漏れた。今でも我慢していないと声を上げそうだ。

「あの、パチュリー様、何を……」

「え?」

 小悪魔の視線の先で、私は自分の秘所を掻き回していた。グチャグチャと水っぽい音が聞こえてきていた。

「あ、えっ!?」

 急いで私は手を止めようとするが、体が言うことを利かない。それどころか手の動きは激しさを増し、それに比例して全身を走る快楽がどんどん大きくなっていく。

「ひぅんっ! だっ、駄目……止まらな……あぁっ!」

 全身が痙攣して、また絶頂を迎えた。体が疲れでぐったりとするが、それでも手は止まらない。

「こぁ……くまぁ……」

 小悪魔に助けを求めるが、小悪魔はどうしていいか分からないといった表情のまま固まっている。

 しばらくその生き地獄を味わった後、小悪魔が私のベッドに乗ってきた。

「ぁ……はぁ、ふぅん……ッ!」

「パチュリー様……」

 小悪魔の唇が、私の唇を奪う。舌が絡み付いて来るが、拒みたいのに体が言うことを利かない。

「ふぅっ、あむ……ふぁ、ぅん……」

「んぁ……はぁ、んむ……」

 小悪魔は私にディープキスをしながら、私の服を脱がしていく。服がこすれるたび、私の股間が熱くなった。

「ぷぁ……パチュリー様、可愛い……」

「こぁ……くまぁ……?」

 小悪魔の指が、私の秘所に割り入ってきた。

「ふぁっ!?」

「パチュリー様のアソコ……ぴったり閉じてて可愛いです。……なんだか、おいしそう」

 そう言って一頻り弄った後、頭を私の股間に埋めた。何をされるのか気づいた私が小悪魔に抗議しようと口を開けたとき、小悪魔が私の秘所にキスをした。

「っ!?」

 その行為だけで私の体は硬直し、続けて小悪魔の舌が秘所に入ってきた時にはすでに絶頂を迎えていた。

 小悪魔は顔に私の愛液がかかるのも厭わず、一心不乱に私の秘所を舐めたり舌を前後させたりしてくる。そのザラザラとした舌の感触を感じるたび、私の体は二度三度と痙攣していく。

「はぁ! はっ、や、やめ……あぁっ!?」

「んっ……おいひぃ」

 私の秘所が美味しいわけもないのだけど、小悪魔は本当に美味しそうに舐め続ける。

「もぉ……げんか……ぃ……ヤメ……」

 小悪魔が私の秘所を剥いた。嫌な予感がしたが、案の定いい方向には転ばなかった。

 小悪魔が歯で、私のクリトリスを軽く噛んだ。

「ひゃあぁああぁあぁぁ!!」

 頭がおかしくなりそうな、強烈な衝撃が私を襲う。最早まともな思考も不可能なほどトドメになったその動作を、小悪魔はさらに続けた。

「あっ、はぁあ! あぁあ! あぁぁぁ!」

 私はただ嬌声をあげ続け、秘所を小悪魔の頭に押し付け続けた。小悪魔の指が私の後ろの穴に割り入ってきたころ、もう一度私の意識は途切れた。





「……申し訳ありませんでした」

 完全復活したパチュリーの前で、魔方陣で縛られた子悪魔がうな垂れている。というより、頭を下げているのだろう。

「パチュリー様の匂いに中てられて、暴走してしまいました……」

小悪魔が謝罪しているが、パチュリーは椅子に座ったまま黙ってみている。普段の無表情に戻っているため分かりづらいが、相当怒っているようだった。

「……送還ですか、パチュリー様……?」

 小悪魔が泣きそうな顔で頭を上げた。パチュリーはそれを見て少しうろたえたが、すぐに元の表情に戻った。

「…………まぁ、今回のことは私にも非があるから、小悪魔だけを叱れないわ」

 そして何より、この怒りをぶつけるべき人物が他に居るのだ。

「今回の貴方の行動は、私が魔理沙を懲らしめる手伝いをすることで不問にするわ。責任を言及していったら、門番やアリス=マーガトロイドにまで行ってしまうもの。……責任は一人に絞るべきよね」

 パチュリーは、今日もまた来るであろう白黒の魔女を捕まえるべく、あれこれと思考を巡らせるのだった。



腹を切るべきですか。そうですか。
キャラクターへの愛情が変な方向に行ってしまったいい例ですねー。ねー。ねー。
個人的には頑張って書いたんで、案外気に入ってるんですが……実用性(?)はあんまり無いかも。
ちなみに、分かる人には分かると思いますが、パチュリーが一生懸命調べてたのはマンドラゴラです。
媚薬とか惚れ薬の材料になるやつですね。あの、犬に抜かせるやつ。犬可愛そう。
あんまりに初歩的な知識だっただけに、知識の魔女さんは忘れてましたっていう無理やりな。
最近マイブームなペアでしたー。次はうどんげとか妹紅とか書こうかと。妹紅と戦ったことないけど。下手なので。


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